~関東大震災から100年~
■建物に瑕疵があるとオーナーに責任が及ぶことも
大地震が起こったとき、賃貸オーナーには建物や家賃収入を失うだけでなく、もっと大きなリスクがあります。建物などの倒壊で住人や歩行者などに被害が出た場合、その原因が「地震=自然災害」ならば誰も責任を負いませんが、自然災害ではなく「建物の瑕疵」が原因だとすれば、賃貸オーナーはその責任を追及される可能性もあるからです。 民法第717条では「建物の瑕疵によって他人に損害が生じた際はその占有者が、占有者が十分な注意・管理をしていた際はその所有者が損害を賠償しなければならない」という内容の、いわゆる「工作物責任」が規定されています。つまり、建物に「耐震性不足」などの欠陥があったときは、必要な安全管理を怠った建物所有者が損害賠償責任を負うということです。 実際、1995年に発生した阪神淡路大震災では、建物の欠陥が住人死亡の一因になったとして、倒壊した賃貸マンションの所有者に総額1億円以上の損害賠償が命じられています。たとえ「地震」という自然災害であっても、またその建物の欠陥が他者の作ったものであっても、建物の問題で被害が出たらば、賃貸オーナーは「建物所有者」として責任を問われることになりかねないのです。
■耐震診断で物件の耐震性をチェックする
そこで、建物所有者として最初にすべきことは、建物の欠陥の発見とその改善です。特に地震対策では、「耐震診断」で耐震性を検査することが最初のステップです。 築年数が古い物件ほど診断の必要性は高くなりますが、特に1981年5月31日以前に建築確認された「旧耐震基準」の建物は注意が必要です。すでに築年数が40年を超えている上に、旧耐震基準は震度5強以上の揺れについては考慮していません。つまり二重の理由で、旧耐震基準の建物は耐震性の検査が急務なのです。 耐震診断の費用は、建物規模や診断方法などで変わりますが、木造アパートなら1棟あたり20~50万円ぐらい、鉄骨造や鉄筋コンクリート造の規模の大きい建物は、延べ床1mあたり1,500~3,000円ぐらいが相場とされています。一部の自治体では賃貸住宅にも適用できる耐震診断助成金を用意しているので、診断前に確認してみることをおすすめします。 ただし、本格的な耐震診断をすると、その診断結果は賃貸借契約時の「重要事項説明」で明示しなければなりません。契約前に入居者に説明することになるため、入居者募集への影響を考慮した上での実施判断が求められます。
■耐震化工事には助成金もあり。建て替えも積極的に検討を
診断で耐震性の不十分が判明した場合には、耐震化工事の早期実施を検討しましょう。費用は安くありませんが、工事をすることで減災はもちろん、入居率の向上、物件の売却価格上昇といった資産価値アップの効果も期待できます。 耐震改修も耐震診断と同じく、自治体によっては賃貸住宅向けの助成金があります。さらに、改修費用の一部を所得税から控除できる特例措置(本年12月31日まで)もありますので、実施する際には忘れずに活用したいですね。 しかし、築40年以上の旧耐震物件をあと何年運用するか、という経営判断も必要です。耐震化工事をしても採算が取れないようであれば、立退き料などを準備してでも「建て替え」という選択肢もあります。大地震による入居者の死傷や高額な賠償責任を負うリスクを減らし、早めに健全な経営に切り替えることも解決策の一つです。